何故もっと早くに出会っていなかったの
「15分休憩!」
手塚部長の、号令がテニスコートに響き渡った。其れを聞いたマネージャーが、待ってましたと言わんばかりにレギュラー達にドリンクとタオルを配りに行く。あたしはいつも其のポジションが羨ましい。何故って?だって、そうすればあの人の傍に近寄れるじゃない。
あの人―――あたしの、片想い。しかも一方的で、下手したらあの人はあたしを知らないかもしれない。だって其の人は一つ上の先輩で、ファンも沢山居る(私設ファンクラブや親衛隊まである。実はあたしも会員だったりする)。おまけにあの人―――不二周助先輩には。
「周助ー!お疲れさまっ!」
「あぁ、有難う。」
「不二先輩は良いっスねぇ、マネージャーが彼女で。」
「違うよ。彼女がマネージャーなんだよ。」
「どっちも一緒っスよ!」
そう、彼には彼女が居る。しかもあたしの憧れのポジション、マネージャー。あたしはこうして沢山の女の子に紛れて不二先輩を見てる事しか出来ない。フェンス一枚の壁は、とっても高くて厚かった。其の高くて厚い壁に、あたしは毎日しがみ付く事しか出来なかった。
休憩時間のほんの数分。不二先輩と彼女のラブラブな会話を、じっと見て訊くしかない。なんて、もどかしいんだろう。嗚呼、羨ましい。マネージャーの彼女。
結局あたしは今日も、練習が終わる其の時間までフェンスにしがみ付いていた。練習が終わると同時にレギュラー達に群がる女の子。でも其の中にあたしは紛れない。何故って?隣には常に彼女が居るから。・・・ずるいなぁ、マネージャーって。
遠目から不二先輩を眺めていると、同じクラスの海堂君が近寄ってきた。彼は、あたしの終わる事の無い、そして叶わない恋の事情を知っている。海堂君だけが知っている。
「・・・今日も来てたのか。」
「うん。こうして眺める事しか、あたしには出来ないけど。」
「話し掛けないのか?」
「話し掛けて、何が始まるんだろう―――何も始まらないのに。」
「お前は何で、叶わないのに想っていられるんだ。」
あたしは海堂君の問いに答えなかった。否、答えられないのかも知れない。だって不二先輩を想う事だけがあたしの原動力なのに。想うのを止めるなんて、多分無理。
―――否、其れさえも否定するかもしれない。あたしはもしかしたら・・・・・・不二先輩が、いつかあたしに気付いて、あたしの元に来てくれるかも、なんて思ってるのかもしれない(そうであったなら、どれだけ嬉しいだろう)。
ねぇ、不二先輩。いつか貴方を『彼氏』だと皆に紹介させてください。
すきです、なんて、言えない。
(今はまだ、貴方を想わせてください)
(08/09/26)
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