水と虹のドルチェ
『ポツ ポツ ポツ・・・』
窓を、雨が叩いた。雨水によって描かれる水のコントラストを眺めながら、テレビのリモコンを手に取りチャンネルを天気予報に合わせる。何かが変わる訳でもなく、天気予報は雨だった。取り繕った笑顔で淡々と今日の天気予報を告げるキャスターを眺める。キャスターによると、今日は一日中雨らしい。
「・・・今日も部活は中止かな。」
食卓に置かれたトーストを齧りながら、呟いた。部活とは、男子テニス部の事である。屋外でスポーツする部活ゆえに、雨が降ると監督の判断で屋内で筋肉トレーニングか、中止のどちらかしかない。
はテニス部のマネージャーだ。氷帝学園の女子ならば、誰とて憧れるポジションに、は居る。そして更に羨ましい事に、其の男子テニス部レギュラーである一人と交際しているのだから、憧れと恨み辛みは多い。
は学校に着くと、真っ先に職員室に居る榊太郎を尋ねた。彼はやはり部活の中止を告げた。雨は未だに教室の窓を叩き続ける。は教室にある自分の机に座り、ホームルームが始まるまで机から離れず、ずっと頬杖を付いたままだった。すると、チャイムが鳴るほんの数分前に、教室の引き戸が引かれた。
「ー!おはよー!」
「おはよう、ジロー!今日もギリギリだね、また寝坊したの?」
「違うC!今日はご飯食べるのが遅かったんだもーん。」
芥川慈朗だ。の隣の席であり、更にの交際相手でもある(同じクラスで隣の席で、最早文句もない)。余程急いできたのだろう、芥川のクシャクシャな髪は雨で濡れていた。芥川は持ってきていた真っ白いタオルで髪の水滴を拭きながら、隣に座るに話しかける。
「ねぇ、今日も部活中止なの?」
「そうだよ。最後にラケット握ったの、三日前だね・・・。」
この三日間、部活は止まない雨の所為で中止続きだった。トレーニングルームは他の屋外スポーツの部活ばかりに取られていた。芥川は其の知らせを聞いて落ち込むかと思っていたが、そうでもなさそうで、表情は何処か嬉しそうだった。
結局雨は其の日の授業が終わっても降り続いていた。と芥川はいつも一緒に帰っている。勿論今日もだ。芥川は始終嬉しそうな顔をしての手を取った。
「部活中止になったのに、何だか慈朗、嬉しそうだね。どうして?」
「だって、部活無い日は一日中と一緒に居れるんだよ?」
「・・・そっか。」
「は嬉しくないのー?」
不満そうな顔をして、の顔を覗き込む。の表情は、芥川に負けない位嬉しそうで幸せそうな表情をしていた。其れを見た芥川は、返事は要らないと言わんばかりに更に笑みを深くした。
「ずっと雨でも良いね!」
そう言うの唇に、芥川はそっとキスを落とした。
微量の愛を砂糖みたく溶かして
(好きな事出来なくても 好きな子が居れば良い)
(10/03)
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