抱きしめて優しく愛して
時は秋。だが気温は冬並に寒いこの日。は部屋のクローゼットの衣替えをしていた。幾ら年中団服だからと言って、私服を持っていない訳ではない。夏服と冬服を丁寧に別け、夏服を奥深くへと仕舞う。しかし、その単純作業も直ぐに終わるだろう(何故ならはあまり服にお金を掛けない)。
そして最後に冬服をハンガーに掛け、衣替えは終了だ。そしては整理していたクローゼットの奥から出てきた物を持って、恋人の元へ駆け出す。
恋人は直ぐに見つかった。と、言うのも恋人であるラビも衣替えをしていたのである。当然部屋に居た。彼は師匠であるブックマンと共同で部屋を使っているが、ブックマンは不在だった。
「ラビ、整理終わった?」
「今終わったさー、どした?」
「えへへー、此れ見て!」
嬉々として取り出した物は、夏からずっとの部屋のクローゼットの奥に眠っていた、花火だった。まだ湿気ていない様子で、火を付ければ色鮮やかな花火が見れそうだ。
「夜、此れしよ!」
「花火かぁ、分かったさ!やろう!」
ラビも笑みを零し、二人でラビの部屋を出た。そして食堂で夕食を取り、空も大分暗くなった深夜に、花火の先端に火を付けた。色取り取りに爆ぜる花火が、冷たい空気を暖かくする。
「冬の花火って綺麗だよね。なんでだろ?」
「さぁ?でも花火よりの方が綺麗さー。」
ニィ、と笑いながら其の科白を言うラビから視線を逸らしながら、は花火を続ける(の顔は林檎の様に耳まで真っ赤だったのだ)。やがて火花が散らなくなり、次の花火を取り出す。
たった二人、二人きりでの花火だったが、二本の花火から爆ぜる火花は、二人を照らし続けた。やがて線香花火に火を付けた。ジリジリと音を鳴らしながら、火花が爆ぜる。暫くは輝いていたが、何の拍子も無く、火玉はポトリと静かに地面に落ちてしまった。
「あーあ、此れで最後かぁ。なんか呆気ないね。」
「今度任務行った時、探して来るって!んで、また二人でやろう。」
「うん!」
笑顔で返事をするに、ラビも笑みで返しながら、をぎゅっと其の腕で抱き締めた。は突然の事で驚きを隠せない様子だったが、次第に慣れてきたのかもぎゅっと抱き締め返す(まるで愛を確かめ合うかの様に)。
「また二人で花火するんだからな、ちゃんと帰って来いよ。」
「分かってる。ラビもだよ。」
愛と希望のオーベルテューレ
(君と僕しか知らない序曲を)
(10/03)
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